人口約40万のイフェに、アーティストと呼ばれるひとたちは100~500人いるといわれている。そのうち66人と出会ったが、国内外で有名なアーティストはひとりかふたり、いるかいないか。
アーティストたちの作品を眺めてみる。面白いものも面白くないものも、センスのよいものもよくないものも、丁寧なものも雑なものも、売れるものも売れないものも、色いろ、ある。
彼らの暮らしを訪ねてみる。6畳間のアパートで家族と住んでいる人、2階建ての家で車を2台所有している人、近所の人たちと冗談を言いあって笑っている人、目を閉じて祈っている人、さまざま、だ。
彼らの姿を見つめる。自らの才能を信じて夢をあきらめない人、荷を背負いすぎであっても胸に誇りを捨てない人、愚痴をこぼしては可能性を拾い集める人、黙って足で歩んで手を動かしつづける人……ただ、創ることをやめない人たちがそこにいる。
果てしないやるせなさと底なしの明るさを持ちあわせる彼らが、アートに生きている。その不条理を、原動力を、描こうとするわたしがここにいる。
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アーティストのパパケイ(中央)とその家族。わたしはイフェのアーティストたちを訪ね歩いてフィールドワークをおこなっている。つくり手や作品について知ろうとして気づくことは、つくり手がアートに出会いその技術を習得していくことや、作品に価値が見出されていくこと、そして、つくり手が家族をはじめとする周囲の人たちとつながりをもつことだ。その過程で、さまざまな闘争や交渉、それから、よろこびや悲しみ、不安や希望といった葛藤がつくり手のなかに、つくり手と周囲の人びととのあいだに生じる。そうして彼らがアートとともに人生を歩んでいることを、「アートに生きる」として、わたしはその様子を文化人類学において描きだそうとしている。
2008年9月7日 イフェ モーレ地区のパパケイの自宅まえにて